「人月商売の害悪」記事を読んで

中嶋聡さんのメルマガを読んでいたら、ITProの記事が紹介されていました。

IT業界の人月商売、多重下請けがもたらす45の害毒
http://itpro.nikkeibp.co.jp/atcl/watcher/14/334361/072100007/?ST=ittrend&P=1

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いろいろと書きたい事が浮かんでくるいい記事だと思います。

45も害毒があるということですが、SI’erの中にいる自分から見ると(もうすぐやめるわけですが)、概ね記事の内容は間違っていないと感じます。

おそらく、SI’erの中にも危機感を感じている人は少しは居ると思いますが、私のように、実際に出て行く決断をする人は非常に少ないと感じます(というか、出会ったことはないです)。
管理職の間でも危機感はあまり感じられず、社内では人月商売が永遠に続くかのような発言も多く見られます。危機感を感じている人は0ではないと思いますが、母数からすると0に限りなく近いのではないかと感じます。

記事と少しかぶる部分もありますが、私は46番目の害悪として、利益圧迫構造の負のスパイラルに入りやすい、というのを挙げたいと思います。

私の場合、人月商売でない業界から人月商売の業界に飛び込んだわけですが、人月における見積もりには、日増しに違和感をおぼえていきました。
優秀であろうとなかろうと、会社として「人月」ありきで値段設定がされるために、使うエンジニアに関わらず価格は一定になります。使われるエンジニアはどれだけ価値を示し、労働原価を抑えて利益率を上げようとも、多くの場合高い評価にあたりません。

ですから、定められた自分の原価範囲を超えないことにだけ気をつけて、ぎりぎりの労働時間でダラダラと仕事を行い、生活のために残業代を稼ぐことに違和感をおぼえなくなります。

私は入社当時、当時の本部長クラスの偉い人と対話する対話会というのに参加したのですが、その際にこの残業代の違和感に果敢に突っ込んだのをよくおぼえています。その当時頂いた回答が「そのうち慣れる」という閉口を妨げる素晴らしい物だった記憶が今も強く残っています。

原価感覚や利益感覚が薄れてくると、「どれだけ自分が忙しいか」、「どれだけ自分が長く働いているか」、というのが一つの優秀/非優秀の基準であると勘違いを始めます。そうなってくると始まるのは、長時間勤務の自慢試合です。

そのバックボーンの中で育ってきた管理職が評価制度を握り始めると、評価の基準は生産性や利益率ではなく、労働時間の長さ、どれだけ会社にいるか、が中心になってきます。
極論すると(私の中では全く極論ではないですが)、「プロジェクトを炎上させずに先手を打って立ち回り、お客様のため、会社のために全力を尽くして頑張った人」よりも、「自らのケツの甘さで着火材をまき散らしながらプロジェクトをすすめ、火がついたら上司に大変だ大変だと叫んで泣き言をいい、やってる感を出している人」の方が評価されるということになります。

人月商売が当たり前の環境下では、前者は、効率よく生産性高く仕事を進めているため、残業は少なく、傍から見ると仕事をしていない人のように見えます。後者は、傍から見るといつも仕事をしているように見えますが、効率悪く生産性低く仕事を進めている傾向が高く、残業は多いです。

炎上しないと評価されにくい状況ですと、どれだけ利ざやを稼ごうと、どれだけ問題を起こさない様進めようと、社内評価自体は上がりにくい傾向にあります。効率性を上げて残業時間を減らしているわけですから、手取り収入も相対的に低くなります。

こう考えている人がいるかはわかりませんが、適度に炎上していた方が自分の実入りはいい訳ですから、適当に進めておいて、適度に炎上させておき、必要なだけ残業して、手取り収入を上げておいた方が、自分にとっては都合がいいという事になります。

この状態が各プロジェクトで起こると、会社にとってはたまったものではありません。
人件費の割合が増えるため、営業利益がどんどん圧迫されていく事になります。人件費が上がると、設備費などの固定費も上がっていく傾向にあるとされていますので、倍々ゲームで営業利益は圧迫されることになります(というような根本的な利益構造がわかっている人はあまりいないように感じます)。

さらに名炎上プレイヤーが昇進しやすい傾向にありますので、その下で育っていく人たちはどんどんと炎上カラーに染まっていきます。炎上カラーのプレイヤーが増えるとさらに利益を圧迫し、会社にとってはボディブローのように効いてきます。そのボディブローを十年以上も喰らっていると、さすがに巨大な会社でも厳しい状況になると思います。

と、これが日本のIT企業(SI’er)の経常利益率が低い傾向にある理由だと思いますが、なかなか今後も改善は難しいようです。まずは粗利ベースの考え方を改めるところから始めていくしかないように感じます。

かつて私は、あるプロジェクトチームで、外出し・丸投げの構造を改め、自衛でエンジニアリングするように構造を改めたことがあります。
その際にも、「この会社の仕事のやり方と違う」、「リスクが大きくなるのではないか」などの批判や懸念を色々と言われました。私の場合は聞こえないフリをしてさっさとやりたいようにやってしまったわけですが、その後、チームの技術力はすごい勢いで高まり、生産性はかなり改善されました。トラブルにも強くなったため、生涯価値で考えるとかなり向上したと考えています。
私が抜けた後もチームがその状態を保っているかはわかりませんが、いずれにしても、あの当時の選択は間違っていなかったと考えています。あとはその生産性と評価が繋がれば、継続して好サイクルは生まれていくはずなのです。

日本のSI’erが今後も継続していくためには、利益構造を改める必要があると私は考えます。利益構造を改めるには、利益のでやすい仕組みづくりをするべきであり、売上や炎上で評価するのではなく、最終利益に対してどれだけ貢献したかで評価すべきであると考えています。

そうすることにより、数字にシビアなエンジニアや営業が育ち、サイクルを好転することができるのではないかと考えます。

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